長野県鬼無里を訪れたのは4月下旬。5月にはミズバショウで埋め尽くされるこの地もまだ、一面の雪に覆われていた。
でも、日差しは優しく、もたれているブナの幹の温かさが背を通じて感じられる。
ブナの根元は雪が溶け、黒い土の輪ができ始めていた。雪に落ちた枝もそれには及ばないものの、形そのままに雪を溶かして1㎝ほどもぐりこんでいる。
まるで、樹の生命のあたたかさが雪を溶かしているかのようにも感じた。
まだ冬の姿の木々に確実な生命を感じ、これから始まる季節の流れに心が弾んだ。
(Seasons Flowプロローグに替えて)
小さな雪解けから春が始まる。
1984年4月 長野県鬼無里村 / Canon New F-1, 100mm